ロバート・ライト氏の『なぜ今、仏教なのか 瞑想・マインドフルネス・悟りの科学 』の感想です。
2017年にアメリカでベストセラーになった本書の邦訳になります。
今回この本を読んでみて、仏教の本質を現代的に解説した素晴らしい本だと思いました。
科学の本などに慣れた方なら、すらすら読めるとは思いますが、意外と歯ごたえがあります。
*まだ読んだことがない、という人に向けて書いています。全3回の予定です。
この本のしっかりとした解説を読みたい方は、『仏教思想のゼロポイント』の著者である魚川祐司さんの解説がnoteに全文上げられているのでそちらを参考にしてください。
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「『悟り』に関する一般の先入見と、瞑想が開く世界の実状とのギャップを埋める記述を、見事に成功させている」『なぜ今、仏教なのか』解説・魚川祐司
現代人のための正統派仏教書
この本は進化心理学を推し進めるジャーナリストである筆者が、自らのマインドフルネス瞑想で得た体験を加えて、仏教を現代風に語り直した作品です。
語り直したというより、仏教の伝統的な文化をもたない地域が仏教を受容する際の自然な流れであるとも言えます。
そして、ほとんど西洋化したといっても過言ではない、
現代の日本においてもその手法は分かりやすいのではないでしょうか。
その典型的な例が私自身です。
この本を読んだ率直な感想です。
進化心理学
私は大学で心理学を学んでいたのですが、その当時から進化心理学はブーム(というか心理学を学ぶ前提理論)のようなものになっていました。
この本の中で何回も触れられていますが、その基本的な主張を引いてみたいと思います。
ベースとなる話ですので、すこし長くなります。(進化心理学をある程度知っている方は飛ばしてください)
自然選択が「気にかけて」いること、それは遺伝子を次の世代に伝えることだ。
過去に、遺伝子の伝播に役立った遺伝形質は反映する一方、役に立たなかった遺伝形質は途中脱落してきた。
だから、「毎日生活するうえで私たちを導いているのはどんな知覚や思考や感覚か?」と聞かれた場合、
根本的な答えは、「現実を正確に見せてくれる知覚や思考や感覚」ではない。
「祖先が遺伝子をつぎの世代に伝えるのに役立った知覚や思考や感覚」が正解だ。
ざっくり簡単に言うと、
私たちは、見たり聞いたり考えたりするが、それらは全部「遺伝子を次の世代に残す」ことに特化されて作り上げられている、ということです。
「遺伝子を次の世代に残す」を別の言葉でいえば、生殖と生存になります。
例を上げると、男女の恋愛観の実験が有名な例かもしれません。
男は体の浮気を嫌い、女は心の浮気を嫌う。
これは単なるヨタ話じゃなくて、きちんとした研究で、数字も出ています。
進化心理学では、この男女の考え方の違いを「遺伝子を次の世代に残す」違いとして見ます。
男性は自分の遺伝子をできるだけ多く次の世代に残すためには、数多くの女性と関係をもつ必要があります。
しかもただ関係を持つだけでなく、相手が自分の遺伝子を確実に受け入れているか知る必要があります。
もし相手が、別の男性と関係をもってしまった場合、
男性は自分の子供であるか知ることができないため、自らの遺伝子を次に残す、という目的が果たせなかったことになります。
それを防ぐために、自然選択は、体の浮気をされていると感じた時に「嫌悪」を引き起こすシステムを男性にもたせた。
反対に、女性は子供を産むので、自分の遺伝子は確実に次の世代に残ることになります。
なので、この場合大事なことは、パートナーの男性がしっかり子育てをサポートしてくれるか、になります。
そのため、自然選択はパートナーの心の浮気(自分に対するコミットメントが希薄であること)を察知したら、
「嫌悪」という感情が引き起こされるように女性をプログラミングしたということです。
正確には、そのような感情を強くもっていた人の遺伝子が次の世代に生き残った、といったほうが正しいです。
この他にも、男は権力、女は美貌、とか言われますが、これも進化心理学的観点から同様の説明ができます。
つまり、どちらの精神性が高い・低いではなく、男女ともに「遺伝子を次の世代に残す」ことを至上命題として生きているだけだということです。
進化心理学のもっと極端な例を挙げれば、家族を愛することや、人を大切にする心、母親が子供を助ける行動までも、すべて「遺伝子を次の世代に残す(=生殖と生存)」ことで動いているといっています。
ちなみに、私は進化心理学があまり好きにはなれませんでした。
人生に特別で聖なる価値をおいていたわけではなかったのですが、今思いかえすと、「人間の意志」のようなものまで否定されてしまう気がしたのだと思います。
しかし、実際に心理学で、数学的に統計をとったり脳の状態を測定したりすると、本当に進化心理学の仮説通りになっていく研究結果が次々を示され、喪失感を覚えた記憶があります。
今わたしたちが見ているもの、感じているもの、考えているものをすべて「生殖と生存」に還元されてしまうことが耐え難かったのかもしれません。
仏教とのつながり
この本では進化心理学の自然選択が私たちの「現実」を決定しているものとして話をすすめていきます。
しかし、有史以前からの自然選択の結果は必ずしも、現代の私たちに有益なものばかりではないことを指摘しています。
例えば、甘いドーナツを必要以上に食べたくなるのは、過去の人類の自然選択の結果ですが、現代は飽食の時代です。
その遺伝子に盲目的に従っていれば、わたしたちの体がどうなるかは想像できるでしょう。
この例が示すことは、過去において有益だったものが、急速に変化した環境に対して自然選択が追いついていないため、
現代では逆に害になっていることです。
ここで仏教の出番です。
自然選択によってある意味「歪められた」現実に対して、マインドフルネス瞑想を実践することにより
その奴隷にならずに現実を”より良く”生きる術を手に入れることができるといいます。
(これを超えたハードコアな瞑想に関して次回【なぜ今、仏教なのか その②:矛盾する瞑想体験】)
瞑想をすることで、「ドーナツがどうしても食べたい!」という欲望を客観的に観察し、自分で制御することによって現実の問題に対応していくことができる、ということです。
瞑想をやったことがない人がこの話を聞くと「ほんとかなぁー」と思うかもしれませんが、そこは実際にやっていただくのが良いと思います。
この本の中には著者の体験談も数多くのっているので、助けになるかもしれません。
もしくは、あなたの彼氏が
とか言い出したら、瞑想させましょう。
まとめ
- 自然選択によって「現実」は作り出されている!
- 浮気ダメ・ゼッタイ
なぜ今、仏教なのかをレビューその②
(↓↓)次回:処世術にとどまらないハードコアな瞑想について(↓↓)