【漫画レビュー】放浪世界『虚無をゆく』:母なる虚無


*ネタバレが含まれています!

注意!

 

今回は水上悟志さんの短編集放浪世界に収録されている『虚無をゆく』の感想です。

短編集の中の1つなのですが、つい先日読む機会がありました。

 

水上悟志さんの作品は今までに『スピリットサークル』を読んだことがあり、こちらの作品も非常に良かったです。

特に『スピリットサークル』は輪廻転生をテーマにしているので、仏教とリンクしやすいのですが、

逆に語れることが多すぎるので、それはまたの機会にしたいと思います。

 

他にも、水上さんのアニメ『プラネット・ウィズ』が現在放映されていて、そちらも評判がいいので見てみたいです…。

 

外に虚無、内に虚無。無限の虚無

 

普通の暮らしをしていた主人公のユウは、宇宙人に連れ去られた後、自分の住んでいるところは宇宙ステーションのようなものであり、自分以外は全員ロボットであることを知る。

そして、自分は地球をまもるために「怪魚」を倒す使命をもった「初代:ユウ」の数世代後のクローンであることも知る。

しかし、地球は数世代前にすでに滅ぼされており、地球にのこされた人類がおらず、ユウの「地球をまもる」という使命も消えていた。

その後も一応は「怪魚」の巣を撃退するために旅を続けるが・・・・・・

という設定で、何の目的も意味も消えたといっていい世界から物語がスタートします。

ユウ「外に虚無、内に虚無。無限の虚無

 

主人公が現状を吐露したセリフには「虚無」しかありません。

 

この感覚は現代に生きるわたしたちにも多いのではないでしょうか。

 

死後の物語を信頼できなくなった現代では、

「死んだら終わり。今を楽しく生きればいい。そのあとはしらないし、考えてもしょうがない。話題にしても意味がない。」

 

という感覚がどこかにあると思います。

 

 

先に物語の結論をいってしまうと、一応の目的であった「怪魚」の巣を撃退し、次世代のユウにバトンを渡しました。

そして次世代のユウは、「地球に戻る!どうなるかわからんけど!」と自分で新しい目的を作り出し、未来に向かっていった・・・・・・・

というお話です。

 

アリのような人間

 

最後に次世代のユウが「地球に戻る」とロボットを集めて演説しはじめた時、主人公はその行動をこう例えます。

ここへきて、新しい「初代」の誕生か・・・

しかし地球に戻るとは・・・

同じところをぐるぐると・・・

まるでアリだな・・・

 

目的がなくなれば、新たな目的を作りだし、自分の生きるガソリンにする。

この人間がとる行動を、自分が幼いころ見た「同じところをぐるぐると回るだけのアリ」に例えています。

 

しかし、それは決して悲観的なものではありませんでした。

虚無を感じながらも自らの役割を終え、そのバトンを受け継いだ次世代がまた役割をつくる。

そこに何かの希望を感じる。

無限の虚無だと思っていた団地の外にも

世界があったんだ

星の世界が

 

主人公は人間がとるアリのような習性に対して、皮肉を言いながらも、最終的にはある意味で肯定的な評価を下しました。

それは次世代のやろうとしていることが「善」だから肯定しているのではありません

主人公は「善」も「悪」も虚無の前では意味をなさないことを知りつくしています。

むしろ、彼が肯定したのは次世代の「決断」でしょう。

 

すべては虚無であるという前提の上での「決断」。

主人公はそこに希望をみいだしたのかもしれません。

 

 

虚無からの

 

実は仏教でも、上に挙げたようなことは重要視されます。

 

例えば、般若心経の有名な一節に

色即是空 空即是色

 

というものがあります。誤解を恐れず、本当にざっくりと説明すれば、

 

色即是空」とは、あらゆるものは存在しない、ということを言っており、

空即是色」とは、何も存在しない「空」からあらゆるものが生み出されること、を説いています。

 

この漫画風に言えば、

 

すべてはものは虚無である

虚無だからこそ決断できる私たちがいる

 

とも言えます。

 

すべてのものが「虚無」というと、なんだかさみしい感じがしますが、

 

その「虚無」から目を背けずによくよく見てみれば、

「決断」できる私たちを生み出してくれる「母なる虚無」が見えてくるかもしれません。

 

まとめ

母なる虚無ー魔訶般若波羅蜜

 

※関連する仏教記事はこちら

※「空」について詳しくはこちらへ

 



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